Last Chapter 古の真実
11:開かれた扉のその先で
新藤が入っていた扉の前に、セレスが立っている。
目を閉じてそのノブに手を触れていた彼女が、暫くして漸くその瞳を開いた。
「ペリートさん。結界、張り終わりました」
振り返った彼女の足下には、そこを中心にうっすらと光を放つ魔法陣が浮かび上がっている。
扉を開いたときに魔物が自分たち以外に危害を加えないように、屋上の扉を中心に結界を張った。
後はこの結界の中にゲートを開けば、魔物が学校を襲うことはないはずだ。
「オッケー。レミアちゃんとベリーちゃんの準備は?」
すっかり今回の司令塔になっているペリドットが、2人を振り返る。
「済んでるわ」
「いつでも行けるよ」
剣と拳に光を纏わせた2人が頷く。
ゲートが閉じてしまった以上、精霊の力を直接借りることは出来ない。
だから2人とも、普段から使い慣れた呪文を武器にかけていたけれど、魔物を押し戻すだけならそれで十分だろう。
「じゃあみんな配置について。レミアちゃんたちの前にゲート開けるから、よろしくね」
「了解」
ペリドットの言葉に、その場にいる全員が頷き、ルビーが指示しておいたとおりの配置に立つ。
それを見届けたペリドットは、側に立つセレスへ顔を向けた。
目が合った瞬間、セレスが力強く頷いた。
それに頷き返すと、軽く深呼吸をして、視線を前へと戻した。
「じゃ、始めるよ」
ふわりと目の前にオーブを浮かべる。
それを前方に向けるようにして、それに向かって両手を向けた。
セレスも同じように、両手で握った杖を前方へと突き出す。
2人で目を合わせ、小さな声で「せーの」と呟いて。
「精霊よ。我が声に応えよ。今一度封印せし異界の扉を開放したまえ」
同時に口にしたのは、いつもよりもずっと短い詠唱。
けれど、いつも以上に集中して紡いだそれは、オーブに、杖の先端の水晶球に、普段以上の魔力を集める。
「ゲート!!」
レミアとベリーの前へと向け、それを一気に解き放つ。
ぶわりと空間が揺れ、宙に黒い線が走った。
無事にゲートが開けられたことにほっと安堵の息を吐き出したその瞬間、強い衝撃が空気を震わせる。
びしりと、黒い線を中心に走った罅を見て、息を呑む。
「やばい、来るよ!!」
ペリドットが叫んだ瞬間、まるで窓ガラスが割れるような音が辺りに響いて、開きかけていた『扉』が弾け飛んだ。
「はあああああっ!!!」
中から魔物が飛び出してくる。
その瞬間を狙っていたかのように、レミアが手にしていた剣を魔物に向かって振り上げた。
巻き起こった風が、飛び出してきた魔物の体を切り裂き、押し戻す。
一瞬遅れてベリーの震う拳が、風を通り抜けた魔物たちを闇の中に飲み込んでいく。
「突っ込め!!」
ルビーが叫ぶ。
それを待っていたかのようにミスリルとフェリアが動いた。
「ロックウォール!!」
「ウィンドウェーブ!!」
準備していた呪文を解き放つ。
ミスリルの呼び出した石の壁が魔物たちの突進を防ぎ、フェリアの風の波がそれを押し戻す。
魔物の突進が少し弱まったのを見て、ルビーは後ろを振り返った。
「2人とも、行くよ!!」
「おうよ!!」
「はい!!」
先に飛び込んだ5人を追って、ルビーたちもゲートへ走る。
向こう側で取りこぼされたのだろう魔物を焼き払いながらゲートを通り抜ければ、目の前には地面を覆い尽くさんばかりの魔物が蠢いていた。
「げっ!マジで魔物だらけ!!」
「怖じ気づいてないでゲート閉めて!!」
「わかってるわ!」
大地に足を着くと同時にこちらへ背を向けたペリドットとセレスの姿を確認して、前に向き直る。
「タイム!!」
襲いかかってきた魔物を切り捨て、隣で戦う親友に声をかけた。
ちらりとこちらを見た彼女は、ふっと口元を緩ませて頷く。
にやりと笑い返して前を見て、手にした短剣を前へと突き出した。
「「フレイムブリザード!!」」
左手を同じように突き出したタイムとほとんど同時に叫んだ。
短剣から吹き出した炎が、タイムの左手から吹き出した吹雪とぶつかり、混ざり合って勢いを増し、無数の魔物を飲み込んでいく。
「セレスとペリートに近寄らせるんじゃないよ!!」
「わかってるわよ!!」
ルビーが叫べば、前方からミスリルの声が返ってきた。
既にゴーレムを呼び出していた彼女は、彼らに指示を出しながら魔物を通さないよう応戦している。
「よし、いける!精霊剣!!」
前の方で戦っていたレミアの剣が、白い光を放つ。
それを見たベリーが、はっとしたように拳を振り上げた。
「精霊拳」
同じように白い光を纏った拳を、犬型の魔物の顔面に叩き込む。
断末魔を上げて吹き飛んだ魔物には目もくれずに、次の標的に向かって拳を振り上げる。
「インクラントアースドラゴン!」
少し離れたところで、ミスリルが竜の姿のウィズダムを呼び出す。
ミスリルの胸の宝珠から現れた巨大な竜は、その場にいる魔物たちを薙ぎ払い、崖から海へと突き落としていく。
「うらやましい……」
それを見ていたルビーが、ぼそりと呟いた。
「何か言った?」
「べっつにー」
背中合わせで戦っていたタイムには、無意識のそれが聞こえてしまっていたらしい。
慌てて誤魔化したけれど、背中越しにくすりと笑みが返ってくる。
「拗ねない拗ねない。あんただけじゃないから」
「聞こえてんじゃん……」
ぼそりとそう呟けば、余計に笑い声が返ってきて腹が立つ。
「あんたはやんないわけ?」
「あたしのはティーチャーがいないと出来ないからね」
「あっ、そう」
にやにやと笑いながらそう返ってきた答えに、これ以上言ってもからかわれるだけだと判断して、目の前の敵に集中する。
本当に数が多い。
大技で焼き払ってしまいたいところだけれど、それで取り零して自分たちを抜けられてしまうわけにもいかない。
幸いここは岬の先端らしい。
少しでも遠くに突き飛ばすことができれば、魔物たちは足場を失い、海へと落ちていく。
鳥のように飛ぶことが出来る魔物が少ないのも、救いだった。
ミスリルの呼び出したウィズダムも、その地形を利用して魔物たちを海へと落としてくれてるらしい。
これならなんとか持ちこたえられるだろうと、そう思ったそのときだった。
後ろから突然地響きのような振動が伝わってきた。
驚いて振り返れば、先ほどまでそこにぽっかり空いていたはずのゲートがなくなっている。
「でき、た?」
「ウィズダム!!」
呆然と発せられたセレスの呟きを耳にした瞬間、ルビーは前方に向かって叫んでいた。
竜の姿をしたウィズダムが、こちらを見る。
暫くの間じっと一点を見つめていた竜の目が、不意にほんの少しだけ和らいだ気がした。
『上出来だな』
「じゃあ……っ!」
『ああ。異世界への扉は閉じられた。もう開かれることはないだろう』
「やった……っ」
ウィズタムの言葉に、ペリドットが笑顔になる。
ほっと安堵の息を吐き出そうとしたのもつかの間、突然目の前に黒い影が襲いかかった。
上空から降下してきた魔物が、気を緩めたペリドットを狙って爪を立てようとする。
はっと顔を上げたその瞬間、魔物は氷の刃に貫かれて、影の下に落下していった。
「2人とも、一息吐いてる場合じゃないよ!」
棍を握り直したタイムが、襲いかかってくる魔物を薙ぎ払いながら叫ぶ。
「わかってるわ!!」
「もおー!こっちは大仕事終えたばっかりで疲れてるって言うのに!!」
セレスが杖を構え直す横で、ペリドットが両手を振り上げて文句を叫ぶ。
先ほどまでの司令塔っぷりは何処へやってしまったのか、子供のようなその言葉に、ひたすら自分の身を守ることに専念していたリーフが苦笑した。
「無事に城にたどり着けたら、美味いお茶を用意するよ」
「ホント!!約束だからねリーフくん!!」
がばりと立ち上がったペリドットが、一度地面にすれすれに落としたしまったオーブを再び宙へと浮かび上がらせる。
「じゃあ行くよ大技!!」
腕を振り上げ、オーブを上空へと飛ばすと、そのまま目を閉じて、呪文の詠唱を始める。
それに倣うようにセレスも、杖を構えて真っ直ぐに魔物の群れを見据えた。
2発の強力な呪文。
それが辺りを覆うと、多くの魔物が光に呑まれて消え失せた。
その後も少し小規模の呪文を何度か繰り返して放ち続け、漸く魔物の姿がなくなる。
「これで一段落か?」
最後の群れを呪文で薙ぎ払ったあと、息を吐き出したフェリアは親友を振り返った。
「うん。そうみたい。風が落ち着いてる」
目を閉じて風を感じていたらしいレミアは、ゆっくりと目を開けると、頷いた。
「やあっと終わったー」
両腕を伸びをするように振り上げたかと思ったペリドットが、そのままどっかりと地面に座り込む。
ゲートを開いてから魔力を使い続けていた披露は相当なものらしく、顔もげっそりとしているように見えた。
それはセレスも同じで、少しふらついて転びそうになったところをリーフに受け止められていた。
「ところで、ここは何処なの?」
呼び出したゴーレムたちを全て還したミスリルが、辺りを見回しながら尋ねる。
ふと、ゲートが開いた場所の向こうに目を止めた。
「あれは……」
彼女の呟きに、全員がその視線の先を見る。
岬の先端に何かがあった。
墓石の残骸のようなそれを見て、フェリアが目を瞠る。
「ここは、ラピスの岬か?」
ラピスの岬。
それは、エスクール王国のある大陸の、ある岬につけられた名前。
「ということは、エスクールの最南端か」
「え、マジ!?」
導き出されたその答えに、声を上げたのはレミアだった。
「よりによって王都から一番遠い場所に出なくても」
「仕方ないじゃん。開けるのだって必死だったんだから!」
ぷくっと頬を膨らませたペリドットが、手足をジタバタさせながら反論する。
「でもさー」
「まあまあレミアさん。私もペリートさんも転移呪文が使えますから、すぐに王都まで行けますし」
「そうね。歩いて行くわけじゃないんだから、問題ないわ」
「いざとなったら封印の森を突っ切ればいいから、徒歩でも3日もあれば王都まで行けるだろうしな」
文句を続けようとしたレミアを、セレスが宥める。
ミスリルとリーフにまでそう言われ、レミアははあっと息を吐き出した。
「それもそうね。悪かったわ」
「別にいいけどー」
素直に謝れば、ペリドットは拗ねたように答える。
口調はいつも通りだけれど、立ち上がらずに座り込んでままであるから、相当疲労が濃いのだろう。
そう判断したレミアが、応酬はせずに素直に話題を変えた。
その話を聞きながら、タイムはふと隣を見る。
ずいぶん静かだと思っていたら、そこにいるルビーは、先ほどからずっと俯いて、何か考え込んでいるようだった。
「ルビー?」
「え?」
声をかけられ、驚いたような表情で顔を上げたルビーが顔を上げる。
「どうかした?」
視線が合うのを待って尋ねれば、少しだけ目を見開いた彼女は、けれどすぐに笑顔を浮かべた。
「んー。別に何でも?」
その顔を見て、タイムは顔を顰める。
「本当に?」
「本当だってば」
笑ってそう返すルビーの笑顔が、いつも通りのものではないことくらい、すぐに見抜くことができる。
どれくらい長く彼女の隣にいたと思っているのだろうか。
そう思いはしたけれど、問い詰めたって言わないだろうこともわかっているから、納得したふりをして会話を終わらせた。
タイムのその態度を見て、誤魔化せていないなと思いながら、ルビーはありがたく彼女から視線を逸らす。
こればかりは、彼女にも言えないと思っていた。
普段はあまり気にしないでいられたけれど、こんなにも大量の魔物と戦うことになった今、改めて実感している。
戦うのがきつい。
戦闘自体はそういうわけではないけれども、とにかく相手の量が多くなるのがきついのだ。
火の呪文に長けているとは言っても、ルビーは魔道士ではない。
呪文の威力は、セレスやペリドットと比べるとだいぶ低いのだ。
大技がない。
精霊神法という強力な呪文を、1人だけ得られていないことがきつい。
今まで見ないふりをしてきたそれが、こんなにも重くのし掛かってくるとは思わなかった。
精霊神法が欲しい。
欲しいけれど。
「ねー。ルビーちゃんどうする?このままリーフくんを王都に送り届けるんでいいのー?」
ペリドットの声に、はっと顔を上げる。
動揺を押し隠して、少し考え込むふりをすると、いつもの調子を装って肩を竦めて見せた。
「この魔物の量、尋常じゃないしね。こっちでも何か起きてると見て間違いなさそうだし。王都だったら情報集まってるでしょ」
「じゃあ、情報収集てがら送ってくってことでいいんだね?」
「うん」
「リーフくんもそれでいい?」
「正直ここから一番近いクラーリアの様子が気になるけど、どこもかしこもこの状態だって言うなら、町をひとつひとつ見て回るわけにも行かないしな」
「やるとしても、それは兵士の仕事だな」
呆れたようなフェリアの言葉に、リーフは「それはそうなんだけど」と頭を掻く。
それを見た彼女は、やれやれとため息を吐いた。
「本当にこの世界で何か起こっているなら、お前は帰るべきだろう」
「ああ、わかってる」
迷い無くそう答えたリーフを見て、フェリアは一瞬驚きの表情を浮かべた。
ちょっと前なら「でも」と反論が入りそうなところだったが、どうやら彼にもだいぶ次期国王の自覚が芽生えているらしい。
それを確信して、ふっと笑う。
それを見ていたペリドットは、楽しそうな笑みを浮かべて立ち上がった。
「じゃ、決定だね」
ぱんっと手を叩けば、全員が彼女に注目する。
「じゃあ、みんな!こっちに集まって!」
両手を挙げて全員を呼ぶ。
それに答えて歩き出そうとしたそのとき、がさりと茂みが鳴った気がして、ルビーは足を止めた。
振り返れば、茂みが動いていた。
息を呑んだ瞬間、そこから獣が飛び出してくる。
その進行方向を悟った瞬間、ルビーは大地を蹴っていた。
「セレス!!」
「え?」
セレスが反応するより先に、かざした短剣が獣の爪を受け止める方が早かった。
「魔物!?」
「みんな森の方へ走れっ!!」
力任せに爪を弾き飛ばして、炎を放つ。
魔物が怯んだ隙に叫べば、全員が弾かれたように走り出した。
先頭を切ったレミアが、剣を抜き放って森へ走り込む。
その判断は正解だったらしく、森の中から魔物の断末魔が聞こえた。
「ちっ!」
誰かが舌打ちをした。
終わったと思った戦闘は、再び集まり始めた魔物たちを相手に再開することになったらしい。
「姉さん!!」
「早く行って!!このままここで戦うのは危な……、っ!?」
叫んだ瞬間、隣を抜けていく影があった。
はっと視線を向ければ、先ほど弾き飛ばした獣が、セレスに向かって突っ込んでいく。
「ふざけんなっ!!」
短剣に炎を纏わせ、背中から突き刺す。
肉の焼ける臭いがして、獣が絶叫する。
けれど、その動きは止まらない。
ルビーを振り落とそうと体を大きく揺さぶる。
振り落とされまいと必死に体毛を掴みながら見た光景に、ルビーは息を呑んだ。
「こいつ、まさか」
獣の背にしがみついたまま周囲に視線を走らせる。
一見、闇雲に襲いかかってくるように見える魔物の群れ。
それが、一点に集中していることに気づいた。
「なんで……っ!?」
歯を食いしばって、体毛を掴んだ手から炎を放つ。
炎に包まれた獣の背から短剣を引き抜いて飛び降りると、その獣に体を向けたまま叫んだ。
「ペリート!!転移呪文の準備して!!」
「えっ!?こんなときに!?」
ルビーの言葉に、ペリドットが驚いて振り返る。
「いくら何でも数が多すぎる!!全部相手してたらこっちが先に力尽きるよ!!」
「そうだけど!!」
ペリドットの言いたいこともわかる。
1人2人ならまだしも、こんな大人数で転移するには集中する時間がいる。
けれど、もうそんなことを言っている場合ではない。
「それに、こいつら……」
「姉さん!!前!!」
セレスの声に、はっと視線を戻す。
いつの間にか、目の前に火傷だらけの獣が迫っていた。
とっさに右腕を上げる。
途端に衝撃が腕に走った。
一瞬遅れて、燃えるような熱さと痛みが襲ってくる。
「しま……っ!?」
怯んでしまったその瞬間、反対側の脇腹に衝撃が走った。
足が地面から離れる。
そのままぶわっと風を受けながら、体が宙に吹き飛ばされる。
気づいたときには、目の前に青が広がっていた。
「姉さんっ!!」
悲鳴のような声が聞こえた。
それが妹のものだと認識するより早く、体は海に向かって落下を始めていた。
「う、そ」
零れた声は、風に吹き消される。
遅れて、視界の中に、空よりも濃い青と黒が飛び込んできた。
「ルビーっ!!」
「タイ……」
勢いをつけて追いついてきたそれに、腕を捕まれた瞬間、酷い衝撃が体全体を覆って。
そこでルビーの意識はぶつりと途切れた。
「姉さんっ!!タイムさんっ!!」
「待てセレス!!」
「放して!!姉さんっ!!」
タイムを追って崖を飛び降りようとするセレスを、リーフが後ろから抱きかかえるようにして止める。
突然の事態に、誰もが言葉を失っていた。
「セレス!リーフ!!」
ベリーの声に、我に返る。
ルビーを崖の下に叩き落とした獣が、2人に迫っている。
それに気づいたベリーが、魔力を宿した拳を叩き込んでいた。
ペリドットも側で感じた気配に気づいて、オーブを叩き込む。
ふと、気づいた。
今の魔物は、ペリドットの相手をせずに側を通り抜けようとした。
そしてルビーを叩き落とした獣も、落ちたルビーには目もくれなかった。
まるで、進路上に障害物があったから、薙ぎ払ったのだと言わんばかりに。
「……っ。もしかして、こいつらって」
「ペリート!!王都に転移するぞ!!」
思い当たった可能性に息を呑んだその瞬間、フェリアの声が耳に飛び込んできた。
名前を呼びながら振り返れば、彼女は目の前の魔物の群を風の呪文で薙ぎ払いながらこちらを窺っていた。
そんな彼女に、魔物を斬り捨てたばかりのレミアが食ってかかる。
「ちょっと待ってフェリア!!ルビーとタイムが!!」
「あの2人が一緒なら大丈夫だろ!!」
「そう、かもしれないけど……」
強い口調で反論されて、レミアが怯む。
それでもなお口を開こうとした彼女を、フェリアは強い口調で制した。
「私たちは王子殿下を王都に送り届けなければならない。全滅するわけにはいかないんだ」
フェリアのその言葉に、ペリドットは息を呑む。
おそらく、フェリアも気づいたのだ。
魔物たちには目的がある。
そして、きっとルビーも気づいていた。
だから突然、離脱を提案した。
きっと投げ出される直前にあのとき言いかけていたのは、それだった。
「ガードはするわ!急いで!!」
獣を、それ自身がルビーにしたように崖の下に叩き落としたベリーが、ペリドットに迫ろうとした魔物を退けながら叫ぶ。
「ベリーちゃん……、ありがと」
それに力強く頷き返すと、ペリドットはオーブを呼び寄せた。
「レミアとミスリルはこっちに!そっちは頼むぞ!!」
「OK!リーフくん、セレちゃん放さないでよ!!」
「わかってる!!」
リーフが、今にも飛び出していきそうなセレスを抱きかかえる腕に力を入れる。
「やめて、ペリート!姉さん!!姉さんっ!!」
セレスが必死にリーフの腕から逃げ出そうとするけれど、男性の力には叶わない。
彼らがこちらに来るのは無理だと判断したペリドットは、近くの魔物を呪文で吹き飛ばすと2人に駆け寄る。
それを見たベリーがこちらに駆け寄ってきたことを確認すると、オーブに向かって手のひらをかざした。
「テレポーション!!」
浮き上がるような感覚が体を包む。
一瞬遅れて、視界がぶれる。
次の瞬間、4人の姿はその場から消え去っていた。