SEVEN MAGIG GIRLS

After Story

子供同士の婚約

「アール姉様。わたくし、ちょっと考えたのですが」
夜も更けた王城の、国王補佐官の私室。
双子の幼子を寝かしつけたアールは、義理の妹の声に顔を上げた。
「ん?どうした?リーナ」
振り返ると、義妹は自身の娘を抱き上げ、ぽんぽんと背中を叩きながら寝かしつけをしていた。
子供たちを起こさないように、リーナは声を潜めて口を開く。
「アル君とうちのリリー、婚約させませんか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「……はあ?」
うっかり大声を出したアールは、慌てて両手で己の口を塞いだ。



国王の私室。
子供たちを寝かしつけたアールは、同じく娘を寝かしつけたリーナの首根っこを掴んで、実弟シルラの部屋を訪れていた。
「リーナ姉様。いったいどうしてそんな話になったんですか?」
アールとリーナは今でも義理の姉妹として過ごしていて、シルラもリーナのことを義姉として慕っている。
なので、家族や友人しかいない場所では、今でも彼女のことを『姉様』と読んでいるのだ。
ダークマジック帝国が倒れ、共和王制になってから8年。
すっかり大人になった彼は、困ったようにリーナを見つめた。
「えっとですね。シルラ様、今日、正式にご結婚はされないと宣言されましたでしょう」
「はい。しましたけど……」
「つまり、アルベルトが正式に王位継承者と公言された、ということになりますわよね?」
アルベルトは、国王シルラの実姉であるアールの息子だ。
国王に子がいないのであれば、男性王族に優先的に王位継承権が与えられるこの国では、国王の最初の甥である彼の継承権が第一位となる。
現在のこの国には、他の男性王族は存在しない。
イセリヤがシルラ以外の王族を、殺害やその他の方法で排除してしまったためだ。
「確かにそうなるが……」
「ということは、アル君に他の貴族たちが群がってくることが考えられますわ」
リーナが、ものすごく真剣な表情で言い切った。
アールとシルラは、困惑した様子で顔を見合わせる。
「そう、でしょうか」
「そうですわ。共和王制に移行した直後のシルラ様とか、王族復帰を公表した直後のアール姉様とか、すごかったではないですか!」
そう言われて、思い出す。
確かに、イセリヤがいなくなった直後、国名を変え、マジック共和国として踏み出したばかりの頃の、2人への婚約の申し込みは凄まじいものがあった。
「あの頃は、国の建て直しが最優先と断っていらっしゃいましたけど、今もうそういうわけにはいきませんでしょう?王族もの、生まれる前に婚約者が決まっていてもおかしくないわけですし」
「そういうもの、なんですか」
「イセリヤさえいなかったら、シルラ様にも婚約者がいたはずだと耳にしたこともありますわ」
リーナの言葉に、シルラは一瞬驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに納得したような顔になる。
「今後、アル君には、そう言った貴族の申し出か多くなると思いますの。アル君に直接アプローチをかける方も現れるかもしれませんわ」
共和王制と入っても、貴族がなくなったわけではない。
イセリアがめちゃくちゃにした国を立て直すには、それまで国を運営してきた貴族たちの力も必要だった。
そこに、平民たちも政治に加わることができるようにと、制度を整えたのが、今のマジック共和国なのだ。
最終決定権は国王にあり、そのため王家に取り入ろうとする貴族も当然のように存在する。
「そうなる前に、うちのリリアーナを仮の婚約者にあてがってしまって、阻止するのはいかがでしょう?」
ぱんっと顔の横で手を打って、リーナがにっこりと笑った。
その言葉に、シルラがうーんと唸って首を捻る。
「……確かにアルのことを考えればありかもしれませんが……、リリーの気持ちはどうなるんですか?」
「アルだって、了承するとは思えないが……。それに、将来リリーに本当に慕う奴ができた場合、リリーに申し訳がなさすぎるだろう」
もしも娘にそんな話が出たら、簡単に了承する気には慣れない。
そう思いながら、アールは義妹を無意識に睨む。
その視線を受けても、リーナは悪びれもせずに笑った。
「ですから、ある程度の年齢になったら見直しをするという項目を追加した仮婚約にすればよいのです」
その言葉に、アールとシルラは驚き、目を丸くする。
「……そんなのありなんですか?」
「国王であるシルラ様が押し切ってしまえばよいのですわ」
「うちは絶対君主制ではないんだぞ……」
ぐっと拳を握って答えたリーナに向かい、アールは盛大にため息をついた。
それに苦笑いを浮かべていたシルラは、ふと、何を思い出したように「あっ」と小さく声を上げた。
「そうなると、アリスはどうするんです?アマスル姉様が継承権を返上している以上、継承権二位はアリスです。こちらにも婚約させたい貴族が群がってくる可能性がありませんか?」
アールは、シルラが成人した際に継承権を返上している。
現時点では王位継承権第二位は、アールの娘であり、アルベルトの双子の妹であるアリスとなるのだ。
「そうですわねぇ。ルビー様たちの子が、男の子だったら相談できるのですけれど」
「あいつらのところは、まだ生まれていないか生まれたばかりだろうし、セレスとリーフの子以外は平民なんだから巻き込むな。そもそも、あいつら、全員初産なんだから、娘だろう」
それは、彼女たちの祖先が精霊と結んだ盟約だ。
勇者の一族。
その第一子は、何らかのイレギュラーが発生しない限り、必ず女児が生まれる。
その女児が、勇者の力を受け継ぎ、次代に繋いでいくのだ。
「フェリアさんの子が男の子なのでは……?」
「あ!そうですわ!」
「だから、他国の平民を巻き込むな」
名案とばかりに声を上げた2人を、アールが制止する。
そうしてから、大きなため息を吐き出した。
「とりあえず、アルとリリーを婚約させる件は、今はまだ結論は出せない。契約的な仮婚約をさせるとしても、もう少し2人が大きくなってからだ」
「ええー?」
「本人たちの意志もなしに、そんな複雑な婚約を結ばせるわけにいかないだろう」
アールがリーナをぎろりと睨みつける。
「それもそうですね。本人たちがもうちょっと……、その、期限付きの約束だって理解できる年齢になってからがいいんじゃないですか?」
「……そうですわね。わかりましたわ」
シルラにもそう言われ、リーナは渋々と言った様子で了承する。
「なら、この話はとりあえずおしまいだな」
そう言って、アールは立ち上がった。
「遅い時間にすまなかったな、シルラ」
「いいえ、姉様。姉様たちの相談なら、いつでもしてください。僕も遠慮なしにさせていただくので」
「ああ。ありがとう。私も大歓迎だ」
にこりと笑う年の離れた弟に、アールは嬉しそうに笑って言葉を返す。
「うーん。お姉様とシルラ様と正式に家族になれると思ったのに、残念ですわ」
「……リーナ」
ぽつりと呟かれた言葉が耳に届いて、アールは義妹を睨みつける。
「冗談ですわ。わたくしの願いで、娘たちを振り回すわけにはいきませんもの」
「……わかっているなら、いい。では、おやすみ」
もう一度リーナを睨みつけると、アールは部屋を出て行った。
ぱたんと扉が閉まった音を聞いて、シルラは盛大にため息をつく。
「リーナ姉様。アマスル姉様がそういうの大嫌いだってご存じですよね」
「ええ。軽率でしたわ」
シルラにまで睨まれ、リーナはしょんぼりと肩を落とした。
「でもちょっとだけ、ほんとーうにちょっとだけ本心ですのよ」
ぽつりと呟かれた言葉に、一瞬だけ目を丸くしたシルラは、すぐに優しく笑って。
「僕もアール姉様も、リーナ姉様のことを本当の兄弟だって思ってますから」
「シルラ様……」
リーナは顔を上げ、少し潤んだ目でシルラを見つめる。
しかし、シルラの笑顔は、すぐに怒りを含んだものに戻ってしまった。
「でも、一瞬でもアルとリリーを道具にするような発言をしたことは、猛反省してください」
「はい。申し訳ありませんでしたわ」
もう一度肩を落としたリーナを見て、シルラは再びため息をついた。
シルラも、もちろんアールも、リーナの言葉が本心でないことはわかっている。
けれど、自分だけ血が繋がっていないことを、寂しく思っていることも知っている。

まあ、この人のことだから、二度とそんなことを言うことはないだろうけれど。

反省したことは、二度とやらない人だ。
今後については心配ないだろう。
だからそれ以上怒ることはせずに、シルラはこれからの子供たちの行く末に思いを馳せた。

2026.2.22