SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter1 帝国ダークマジック

21:作戦会議

「まっさか、あたしたち以外の全員が集まっちゃってるなんてねぇ~」
「こっちこそ。闘技場にいるなんて思わなかった」
精霊神殿の地下。
本来神殿の関係者だけが通ることを許されたその場所を6人は歩いていた。
「そっか。ついにエスクールが動いたって事ね」
前を歩いていたプリテスがぽつりと呟く。
「動かした、って言う方が正確かもしれないけど」
「あははは。確かに」
妙にはっきりものを言うミスリルに、ルビーは苦笑する。
「じゃあブレイズとティアも戻ってきてるのか?」
「ああ。みんな会議室に揃ってる」
カスキットの問いかけに、先頭を歩いていたジャミルが振り返って答えた。
「そう……。これでようやく……」
「俺たちがここに入った意味もできた、ってところだな」
「入った意味?」
不思議そうに聞き返したのはペリドットだ。
「ああ。精霊神殿に、ね」
「結構便利なのよね、ここ。国に対する組織作るには。ま、普段は暇でしょうがないけど」
「暇って、プリテス。お前一応最高責任者なんだろ?」
呆れたようにジャミルが問いかける。
「わかってるわよ。だけどね、今はそうであってそうでないの」
「っていうと?」
気になることは何でも聞き出すつもりらしいペリドットが、興味津々と言った様子で尋ねた。
「ああ、あんたたちは他国民だから知らないかもね。イセリヤってね、大僧正って官位まで強奪してるのよ」
「あれは強奪とは違う気がするが……」
「強奪よ強奪。そのせいで精霊神殿の最高責任者まであいつになっちゃってるのよ!あたしがいる意味ないじゃない!!」
「だからって遊びに行っていいわけじゃ……」
「カスキット。ちょっと黙ってなさい」
ぎろっとプリテスがカスキットを睨みつけた。
言われて仕方なくカスキットは口を閉じる。
こうなった時の彼女に何を言っても無駄だということをきちんと理解しているのだ。

「大僧正、ねぇ……」
ぽつりと呟くようにルビーが言った。
「どうかした?」
不思議そうにミスリルが尋ねる。
「ん?いや、どの位の地位なのかなって思って」
「大臣より上よ」
きっぱりとプリテスが答えた。
「大臣より上?」
「そう。大臣と精霊神殿の責任者を兼任する『大僧正』は大臣の上で皇帝のすぐ下。要するに、皇帝を除けば国で一番偉いの」
「国で一番、ね」
「何?何か気になるのか?」
立ち止まり、振り返ってジャミルがルビーに声をかける。
「別に。またそのパターンか、と思って」
「また?」
「知らない?1000年前、歴史上にイセリヤが現れたときも同じ地位を独占していたってこと」
「ああ、そーいえばそうだった気がする」
思い出したとでも言うようにペリドットが呟く。
「どうしてそんなにダークマジックという国のトップに拘るんだろう」
「どうしてって、この国が大国だからだろ?」
「それはわかるけど、もし人間界を支配したいなら、魔界から部下でも何でも率いてきて一気に乗っ取った方があいつにとっては効率的に思えてさ」
「ああ、言われてみれば……」
「ま、本人に聞かない限りわかんないから、どうでもいいんだけど」
あっさりと考えることをやめたルビーに、思わずジャミルは脱力した。
「お前、ここまでまじめに話しをしといて……」
「でもルビーちゃんの言うとおりだよ」
ひょいっとペリドットがルビーの肩を掴み、その肩越しに顔を出す。
「本人にしかわかんないことは本人に聞くしかないじゃん。あたしたちがここで考えても、所詮想像止まりからね」
「……」
「ん?どうかした?」
ぽかんとした顔でペリドットを見たまま固まったジャミルを、ルビーは不思議そうに振り返った。
「いや、お前といいこいつといい、何も考えてなさそうな顔してんのにめちゃめちゃまともなこと言うなぁ、と」
「……燃やしてやろうか?」
「狭すぎて他にも被害が出るからやるなさい」
ジャミルを睨んで言ったルビーに、あっさりとミスリルが言い返した。
そんな彼女を睨みでやろうと思い、ルビーは勢い良く振り返った。
だが、ミスリルの手を見た途端その表情を変える。
「……はーい」
一体何を見たのか、ルビーは怯えたような表情で視線を逸らすと、素直に返事をした。
そのまま小さく舌打ちをして、何事もなかったかのように歩き出す。
「……もしかしたら俺たち、ある意味とんでもない人たちに協力要請したかもな」
「何言ってんの。他から見たらあたしたちだって同じようなもんじゃない」
3人とジャミルのやり取りを見て、カスキットとプリテスは小さく囁き合った。



神殿の地下通路を抜けた先にある地下水路。
その一角に作られた石造りの部屋。
数10部屋近くあるその中の、一番大きな会議室として使われているらしい場所に彼らはいた。
「改めて自己紹介します。俺はカスキット=エイム。聖騎士団とここのリーダーを務めている者です」
他国から訪れた勇者たちが数時間ぶりの再会を祝う中、ざわめきが納まり始めて最初に口を開いたのは、この組織の責任者とも言えるカスキットだった。
「精霊神殿神官長兼副リーダーのプリテス=ストリーよ。よろしく」
その隣でプリテスがにっこりと笑う。
「早速で悪いんだけど、皇城を攻略したいの。協力してもらえる?」
先ほどまでしていた雑談を一切止め、ルビーが尋ねる。
「もちろん。そのためにあなた方をここに通したんですから」
一瞬にして変わった表情に、少し戸惑いながらもカスキットは頷いた。
「それはいいけど、どうする気だ?」
カスキットの隣で暇そうに欠伸をしながらブレイズが尋ねた。
「城の警備って半端じゃないぜ?中の奴らの依頼で入るハンターだって厳しい身体チェック受けてさ。自分のメインの武器1本しか持ち込ませてくれねぇんだ。そう簡単に入れるとは思えねぇんだけど」
「そりゃそうでしょう。いつ何処から自分の命を狙ってくる連中が国に入り込むともわからない。鎖国してるわけじゃないから、せめて入城審査は厳しくしないとって考えるのが魔族の一般的な性だし」
あっさりとレミアが言った。
どうやら仕事柄、そういうことには自然と詳しくなってしまうらしい。
「簡単よ、そんなの」
あっさりと言うプリテスに全員の視線が集まった。
「簡単って?」
「何を隠そうこの街の住人は、城の関係者以外の全員が反乱軍の一員なのよ」
「ぜ、全員っ!?」
思わずペリドットが声を上げる。
「ああ。結局みんな、イセリヤの政治には嫌気が差してるってことだよ」
不機嫌な表情でジャミルが答えた。
「そういえば、圧政だって言ってたもんね」
「税金だって年々上がってるからな。本当、嫌になる」
視線を逸らして吐き捨てるように言った。
そんなジャミルの顔をじっと見つめながら、ルビーはさっと視線を走らせた。
カスキット、プリテス、ブレイズ、そしてティア。
誰もがやりきりないという表情をしている。
どれだけイセリヤの政治が酷いものなのか、彼らの表情だけで察することができた。
「この街の住人が全員反乱軍なのはわかったけど」
不意にタイムが口を開いた。
「それでどうするの?もしかして全員で城に攻め込む」
「半分正解半分はずれ」
あっさりとプリテスが言った。
「それで城の警戒を強めちゃ意味ないでしょう?」
「城下で反乱を起こす」
その言葉に、驚いたようにプリテスが視線を動かした。
それに続くように全員の視線が一か所に集中する。
「そして兵士が出払った隙に精鋭だけが裏から侵入。戦略としてはそんなとこ?」
視線の集まったその中心にいたのはレジスタンスの誰でもなく、ミスリルだった。
「驚いた。よくわかったね」
感心したようにプリテスが言った。
「誰か1人を叩くならその方がいいでしょう。兵士が出払えば警備も手薄になるだろうし」
あっさりと言うミスリルに、ふうとプリテスはため息をつく。
「その通り。あんたって軍師の才能あるんじゃない?」
「さあ?そういう職、故郷にはないものだから」
「ミスリルちゃん……」
やけに平然としているミスリルに、思わずペリドットが苦笑する。
「で、その精鋭っていうのは私たちでいいのかしら?」
「ええ、そうなります」
ベリーの問いかけにカスキットが頷いた。
「あの、裏からって、あの城に裏口があるんですか?」
控えめにセレスが尋ねる。
その声には不安が入り混じっていた。
水晶の記憶によれば、先代は表から城に突入している。
裏口があると言う情報は、欠片もない。
「ある」
その不安を知ってか知らずか、きっぱりとジャミルが答えた。
「断言できるんだ」
「当然」
どことなく呆れた口調のルビーの問いにもきっぱりと言い返す。
「イセリヤの行動には腹が立ってたからな。何度か鼻を明かしてやろうと思って、財宝盗みに行ったことがあるんだ」
「威張れることじゃないです。見つかったら公開処刑なんですよ」
胸を張って言うジャミルに、呆れた様子でティアが言った。
「過ぎたことを言うなって。で、それで見つけた。協力者と王族しか知らないっていう秘密のルート」
「協力者?」
初耳だったのか、驚いたようにカスキットが聞き返す。
「ああ。信頼度100パーセントだって言い切れるぜ。何たって兵士に見つかりかけた俺をそのルートで逃がしてくれた奴だし」
「ただ慈悲深かっただけじゃないの?」
不審そうにプリテスが言った。
「それは……」
「おいジャミル。もしかして、自分がレジスタンスだって言ってないだろうな」
腰の剣に手をかけてブレイズが聞く。
「当然。そこは一応警戒したから」
「……っていうかさぁ」
不意にルビーが口を開いた。
「その協力者、邪天使隊のアールとか魔武道のリーナだって言わないよねぇ?」
「な、何でそれをっ!?」
驚いたように言うジャミルに、一瞬ルビーは固まった。
そして盛大にため息をつく。
「な、何だよっ!!」
「その2人、もう城にはいないよ」
きっぱりと言われた言葉。
それはルビーのものではなく、その隣に座っていたタイムのものだった。
「いないって……」
「発表されてないの?もしかして」
「どういうことです?」
意外そうに問いかけるベリーに、わけがわからないという様子でカスキットが聞き返した。

「リーナは死んだよ」

困惑に瞳を揺らした彼女の変わりに、きっぱりとペリドットが答えた。
「裏切り者って判断されてね」
レジスタンスの面々が、反射的に言葉の主に視線を向ける。
「同時期にアールは裏切り者とみなされ城から逃亡。もう2人ともこの国にはいないのよ」
最後の真実をタイムがはっきりとした口調で告げる。
「あの、イセリヤへの忠誠心は国一番だって言われていた2人が……?」
信じられないという表情でプリテスが聞き返す。
「理由がありません」
困惑した表情でティアが口を開いた。
「あの方々がイセリヤを裏切る理由が……」
「あるよ」
ばっとティアが顔を上げる。
その視線の先には、顔を伏せて黙り込んでいたレミアがいた。
「あるって……」
「あの2人はアマスル皇女の行方を知ってしまった。だからリーナは殺されて、アールは逃亡せざるを得なくなった」
「アマスル皇女の行方を?」
「何でお前らがそれを知ってんだよ」
不審そうに目を細めてブレイズが尋ねる。
「聞いたから」
「聞くって……」
「アールの逃亡先が、今あたしたちの暮らしている異世界だったんでね」
目を伏せて、ルビーが静かに言った。
「助けたときに全部聞いた。アマスル皇女が何処にいるのかも」
「何処だ?」
テーブルに身を乗り出してジャミルが聞く。
「アマスル様は……アールさんも、何処にいる?」
「アールさん?」
意外な呼び方に、思わず聞き返した。
「あの人はイセリヤに忠誠を誓ってはいたけれど、城下の人にもよくしてくれてましたから」
懐かしむような瞳でティアが答えた。
「あの義姉妹以外の城の関係者は酷いもんでね。ちょっとぶつかっただけでも怒鳴り散らすんだ。老人であろうが子供相手であろうが」
「それをいつも止めていたのがアールさんでした」
「へぇ……。あいつ、そういう奴なんだ」
見知った人間の意外な一面に思わず感心してしまう。

「……ひとつ聞きたいんだけど」

不意にミスリルが口を開いた。
「はい?」
「もし、イセリヤを倒してアールがこの国に戻ってきたとしたら、この国の人たちは彼女を素直に迎え入れられると思う?」
「ミスリル!?」
突然の問いかけに、ルビーは驚いたように叫んでミスリルを見た。
他の者たちも、まさかミスリルがそんなことを聞くとは思っていなかったらしい。
意外そうに彼女の方へと視線を向ける。
「……大丈夫だと思う」
答えたのはティアでなくプリテスだった。
「あの人なら、何処に行ってもそんなに悪い評判は聞かなかったし」
「そう……」
それだけ言ってミスリルは微かに笑った。
たぶん、レジスタンスの彼らにはわからなかっただろう。
これがアールのことを気にした安堵の笑みだということに。
「はいはい。それはいいとして、明日の作戦の具体的なこと知りたいなぁ、あたしは」
話を元に戻そうと、ルビーはぱんぱんと手を叩いた。
「全体的な作戦知らなきゃ失敗したとき対処しようがないし」
「ああ、わかってます」
答えてから、カスキットはティアを見た。
それに気づいて頷くと、ティアは立ち上がってすぐ後ろにある棚へと向かう。
そして、その棚の上に丸めてあった1枚の大きな紙を手に取り、テーブルの上に乗せた。
「これが聖騎士団が作成した城下と城内の見取り図です」
広げられた紙は2枚重なっていた。
小さい方が城下の簡単な地図で、大きい方が城全体の見取り図だ。
「ジャミルの言う隠し通路は描いてませんが」
「そりゃそうだ。だって俺、一部しか知らねぇもん」
あっさりとジャミルが言った。
「一部しか知らないって、それじゃそこ使えなんいじゃない?」
「ところがどっこいいるんだな。もう1人協力者が」
胸を張って言うジャミルに、ルビーが呆れた顔をする。
「誰?またもう城にいない奴じゃないでしょうね?」
「いる。この人は確実にいる」
きっぱりと言い切り、それでも名前を言わないジャミルにだんだん腹が立ってくる。
ルビーはどちらかといえば短気な性格をしている。
自分がやるならともかく、他人にあまり話を引き伸ばされるのは好きではない。
「だから、誰?」
「聞いて驚けっ!シルラ=ラル陛下だっ!!」
一瞬、室内が静まり返った。

今、この男は何と言った?

「何だってっ!!!?」
真っ先に叫んだのはカスキットだった。
「皇帝が協力者っ!?」
「何考えてんのっ!?」
「頭打ったかジャミルっ!!?」
次々と浴びせられる罵声とも言える言葉に、自信満々だったジャミルの顔が引き攣る。
「ひでぇ言われよう」
「でもあたしも同意見だけど」
「ミュークさん~」
タイムにまであっさりと言われ、ジャミルは情けない声を上げた。
「皇帝でしょ?イセリヤにこの圧政許してるような奴が信用できるの?」
「……!?そっか、そういうこと」
はっと顔を上げてルビーがジャミルを見た。
「ルビー?」
「一番イセリヤを裏切る可能性があるのは皇帝だよ。逆に言えば、信用できる奴なんて皇帝以外に考えられない」
「それってどういうこと?」
わからないと言った表情でセレスが姉を見る。
「この国の皇帝シルラ=ラル=マジックは10歳」
「よって、彼に政治に関する決定権はないに等しいんです」
きっぱりと告げられた言葉に、事実を知らない者たちは目を見開いた。
「それじゃあ……」
「圧政を許すも何も、最初っから妨げる権利さえないってこと」
「それに、本人に聞いた話じゃ自由もないらしくってな」
何処か寂しそうな目をしてジャミルが言った。
「たまーに隠し通路から抜け出して、外で1人で遊ぶのだけが楽しみだって言ってた」
「何か、すっごい可哀想……」
しゅんとした様子でペリドットが呟く。
「あたしさぁ」
不意にレミアが口を開いた。
「そういうのって大っ嫌い」
「同感。ことごとくムカツク奴だわ。イセリヤって」
腕組みをして、吐き捨てるようにルビーが言った。
「そんなことまでしてあの女が何考えてるか知らないけど、絶対全部ぶっ潰してやる」
ぞくっという感覚がレジスタンスの面々を襲った。
ルビーの赤い瞳に怒りの炎が宿っているのが、彼女をよく知らない者にも分かる。
両脇に座る妹と親友は、本当にこういうものが嫌いなんだと改めて実感し、思わず苦笑した。
「賛成!それに、母さんたちの仇も取りたいしね」
「別にイセリヤに殺されたわけじゃないから、仇ってわけではないと思うけど?」
「やっだなーベリーちゃん。気合入れるための言葉の綾ってやつだよ~」
ばんばんとペリドットに背中を叩かれ、思わずベリーは咳き込んだ。
「ふざけ合ってるのもいいけど、そろそろ話を戻さない?」
冷たい目でペリドットを見てミスリルが言い放つ。
それを聞いて、カスキットが思い出したように地図を示した。
「ここがあなた方の出発点となります。その間に我々レジスタンスが街の西部を中心に反乱を開始します」
城下町の東寄りの区域に、精霊神殿のある聖職区域はあった。
逆にカスキットが示したのは盗賊ギルドのある西の区域。
「……でも、聖騎士団や神官がいたら、すぐに神殿に何かがあるって思われない?」
地図から顔を上げ、ミスリルが尋ねる。
「出発を反乱開始より少し早くすれば問題ないと思うわ」
答えたのはカスキットではなくプリテスだった。
「それに、いざという時はこっちも魔物を使う気でいるから」
「魔物を?どうやって?」
「私の両親、獣使いなんです」
プリテスが答えるより先にティアが口を開いた。
「両親はイセリヤに力を買われて城へ行ったきりなんですけどね。私もその力、受け継いでますから」
何処か寂しそうな表情でティアは微笑んだ。
「すっごーい。獣使いって水晶術師並みに少ないんだよ。尊敬~」
「ありがとうございます」
本気で感心しているペリドットに、今度は照れくさそうな表情で笑い返す。
「反乱に加えて魔物の城下侵入。兵士は大混乱に陥るってわけね」
「そういうこと♪」
冷静に言うベリーに、楽しそうにプリテスが頷く。
その様子を見て何を思ったか、ベリーは微かにため息をついた。
「続きを説明します。皆さんはジャミルを案内人として街の東側から城の裏手まで回っていただきます」
「その間、俺たちの方はずっと兵士をひきつけて置けばいいわけだ」
「ああ。使いすぎなければ呪文を使ってもかまわない」
「使いすぎ?」
不思議そうにセレスが聞き返す。
「家を壊さなければって意味です」
「う゛っ!?……うわぁっ!?」
ブレイズとは別の場所から盛大に椅子から転げ落ちる音が響いた。
「……姉さん」
「使う気だったんかい」
「あ、あははははははははは」
誤魔化し笑いをして慌てて椅子を立てると、急いでそこに座り直す。
「で、でさ。その後あたしたちはどうすればいい?」
何とかこの場を誤魔化そうと、無理矢理笑顔を浮かべて聞いた。
「今晩中に俺が何とかして陛下と話をつけてくるから、あの人に隠し通路を案内してもらえばいい」
「今晩中?」
ジャミルの言葉に何を思ったか、ベリーが聞き返す。
「ああ。あの人の部屋までならルートがわかってるんでね。まあ、夜は城の周りも見張りが多すぎて、この道の奴じゃないと近づくのも危ねぇんだけど」
「この道ってことは、あたしなら大丈夫かもってこと?」
「そうだけど、1人で行く気はないんだろ?マジックシーフさん」
「……まぁね」
笑みを浮かべてされた問いかけに、ため息をつきながらルビーは答えた。
「みんなの敵を1人で倒すってのは、ちょっと後が怖いし」
「ちょっとルビー。それはどういう意味かな?」
「そういう意味でーす」
怒りの笑顔を見せながら問いかけるタイムに、逆方向を向いて軽く答える。
そんな彼女たちを見て、カスキットは苦笑しながら地図から手を離した。
「作戦は以上です。検討をお祈りします」
「こちらこそ。よろしくね、レジスタンスリーダーさん」
先ほどまでの様子は何処へやら、真剣さを帯びた笑顔でルビーが手を差し出す。
「ええ。がんばりましょう」
そう笑い返して、カスキットはその手を取った。



作成決行まであと12時間。
このとき誰もが自分たちの勝利を信じていた。
この地の解放を。
そして、勇者たちの完全なる勝利を。

remake 2003.01.27