SEVEN MAGIG GIRLS

Chapter3 魔妖精

22:学年末考査

「これ、一体何?」
理事長室に入った途端美青は思わず固まった。
普段から資料が散乱しているその部屋で、本やファイルが散らかっているのは当たり前の風景なのだが、今日は明らかに広がっているものが違う。
確かに散らかっているのは確かに本やファイル、ノートなのだが、それは資料作りのための物ではなくメンバーそれぞれの持ち物だった。
「美青!」
珍しく彼女より先に来ていた赤美が驚いたように顔を上げる。
「あんた、もう出てきて平気なの?」
「……っていうか、それはこっちのセリフなんだけど?」
「ああ、あたしはいいの。腹減ってただけだし」
あっさりと言う親友に、美青は大きなため息をついた。

あの後、衰弱と栄養失調のせいでルビーは立ち上がれなくなってしまった。
そもそも戦えたことが不思議なくらいだったのだ。
あまりに無理をしすぎたせいだろう。彼女はセレスとミスリルに散々怒られ、強制的に自宅療養させられることになった。
一方のタイムは、元々病み上がりだった体に毒を受けたせいか、翌日には再び熱が出て3日ほど寝込んでしまっていた。

「まあ、熱も下がったし。あたし、だたでさえ1か月近く学校休んじゃったしね」
神殿の警備を頼んだ仲間たちは交代でアースに帰り、授業に出ていたらしいのだが、ずっとエルランドにいた自分はそうもいかない。
「そだねー。何より明後日から休んでられないし」
ノートに文字を綴る手を止めずに実沙が言う。
「明後日から?何かあったっけ?」
「そ、それが……」
赤美があからさまに視線を逸らす。
その頬を流れた冷や汗に、何だか嫌な予感がした。

「学年末考査よ」

きっぱりと言われた言葉に、一瞬反応することが出来なかった。
「……え?」
恐る恐る顔を上げると、理事長席に座った百合がため息をつく。
その手元には、教科書とノートらしき物が広げられていた。
「学年末考査って、期末テスト……?」
「そう」
「い、いつ」
「明後日が初日」
きっぱりと答えられた言葉に、頭の中が真っ白になる。
「あ、明後日ぇぇぇぇっ!!?」
思わず叫んだ美青の、思いも寄らぬ大きな声に、全員が思わず顔を上げた。
「そうだって言ってるでしょう」
百合だけがあっさりとそう返して、再び教科書に向かった。
「ちょ、ちょっと待って!あたしここ1か月半、何も授業受けてないのにっ!」
「だから私たち全員で今、勉強してるんでしょうが」
顔を上げずにノートを見たまま冷たく言った。
「あたしだって普段はもっと前から勉強してるのに~」
「っていうか、お前らはまだマシだと思う」
ぷうっと頬を膨らまして呟く実沙の横で、真っ青になりながら陽一が呟いた。
覗き込んでみれば、先ほどから英語の問題を解いている彼のノートはバツ印だらけになっている。
「……あーあ。ちょっとぉ、これじゃ陽君、赤点だよー」
「うるさいっ!んなことわかってるよっ!」
叫びながらノートに向かう彼は、既に半泣き状態だった。

不意に何か呟きが聞こえて、全員が顔を上げた。
「美青……?」
その呟きの主に、元の位置に戻ろうとした赤美が恐る恐る声をかけた。
「明後日がテスト。あさってがテスト。あさってがてすと。明後日がてすと……」
「み、美青さーん?」
目の前で手を振ってみるけれど、反応がない。
「美青ちゃーん?」
「美青先輩……?」
不安になったのか、他の友人たちまで席を離れて彼女の側へ集まってくる。
ただ1人、百合だけがその場を動かなかった。
「明後日っ!」
「うわっ!?」
突然正気を取り戻した美青に、すぐ側まで顔を近づけていた赤美が避けようとして思わず倒れる。
「こ、こんなところで放心してる場合じゃないっ!やらなきゃっ!!とりあえず教科書っ!」
持ってこなかった分の教科書を取りに帰るつもりなのだろうか。
叫んだと思った途端、美青は物凄い勢いで理事長室を飛び出していった。
「み、みさおー?」
全員が呆然とする中、既に姿の見えない親友の名前を赤美が呼ぶ。
当然それは彼女の耳には届いておらず、返事が返ってくることはなかった。



6日後、徹夜で試験勉強を続けた美青が再び倒れてしまったというのは、また別のお話。

remake 2003.11.15