Side Story
魔法剣特訓記 - 3
あれから1週間。
俺はみっちりミューズの訓練を受けた。
それも漸く終わり、あいつが「休暇が終わってしまう」と言って帰ったと思ったら、またレミアに呼び出しを喰らったのだけれど。
「と言う訳で、今日はゲストがいます第2弾」
「は?」
ミューズの時もそうだったけれど、突然言われて何が何だかわからない。
聞き返そうとしたけれど、それはレミアに物凄い目で睨まれてできなかった。
「やっぱり有休中に来てもらいました、リーナ嬢ですっ!」
「お久しぶりですわ、リーフ様」
「……ああ、久しぶり」
ミューズの時と思いっきり同じパターンだよ。
そうは思ったけれど、口に出すと後が怖いから、絶対に言わない。
「……で、何でリーナ?」
昨日までいたミューズが呼ばれた理由は、もう嫌というほど理解している。
けれど、リーナが呼ばれた理由は全くわからない。
彼女は、体術だって使うけれど、職種としては魔道士で、魔法剣には全く関係がないはずだ。
まさか、魔法剣の扱い上の問題があるから、魔法学を学べとでも言うのだろうか。
そう考えていたのだけれど、レミアの口から語られた言葉は、全く違うものだった。
「ミューズ王女と、あとは実戦を経験しないとどうにもならないっていう結論が出たから」
「……はい?」
「これからあんたにはリーナがランダムで開くゲートを潜ってもらうよ」
「……は?」
「1時間ほどそっちで魔物と戦ってもらって、実戦で魔法剣の使い方を身につけてもらうから」
「ちょ、ちょっと待てっ!!」
先ほどリーナを紹介したときの表情を引っ込め、淡々と説明を続けるレミアに待ったをかけた。
そうすれば、レミアは不機嫌と言わんばかりの目をこちらに向ける。
「何?」
「い、いくらなんでもそんな付け焼刃みたいな覚え方……」
「実際に使わないと掴めないものもあるからやるだけで、付け焼刃なわけじゃないよ」
きっぱりと言われた言葉に、さすがに言葉に詰まった。
こいつの言っていることはわかるんだ。
俺だって、そう言って新人の部下を戦場に連れて行くことがあるから。
けれど、ここで大人しくすることなんて到底出来ない。
だって気になるんだ。
『ランダム』という言葉の意味が。
「そ、そもそも何だよ!ランダムって!?」
「だから、ランダムで行き先を開いてもらうのよ」
「行き先をランダムって……。そもそもインシングにいるのにインシングに向かってゲートが開けるのかよ!」
ゲートという呪文は、元々インシングと他の世界を繋げる呪文のはずだ。
インシングからインシングへの扉なんて、開けるはずがない。
出来ないのだから、この特訓が決行されることはない。
そう思って言った言葉は、リーナにあっさりと叩き潰された。
「問題ありませんわ。私が使うゲートは魔族が使う特殊なものですから、インシングに存在する場所同士を繋げるなんて簡単ですのv」
そのとき俺は、本気でこの場から逃げ出したくなった。
「と言うわけだから、行ってもらうよ。出発は30分後。援護なし。行き先は不明。死なないように」
「……はい」
にっこり笑って告げられたその言葉に、俺は素直に返事をするしかなかった。
だって、ここで逃げたって何も変わらない。
下手をしたら、そのまま魔界に落とされることだってありうる。
そんなことになったら、本気で死んでしまう。
そんな結論に至った俺は、素直に返事を返した。
はっきり言って、そのときの俺の顔色は青を通り越して白かった。
「素直でよろしい。じゃあ、リーナ、あとよろしく」
「はい!お任せくださいな、レミア様」
にっこりとリーナがレミアに笑顔を向ける。
それを見たあいつは、そのまま野営地の方へ戻っていった。
やっぱり俺、あいつに何かしたんじゃないだろうかと、この1週間散々考えたことを再び考えたのだけれど、やはり心当たりは全くない。
「ではリーフ様。30分後にまたここで」
「あ、ああ」
にっこりと笑うと、リーナも野営地の方へと戻っていった。
「では、準備はよろしいですか?」
30分後の同じ場所。
数少ない荷物を纏めると、俺は杖を持って自分を待っていたリーナの前に戻ってきた。
「……たぶん」
何故かニコニコと笑っている彼女に不吉な予感を覚えつつ、曖昧な返事をする。
そもそも準備をしろと言われても、何を持っていけば対策になるのか全然わからない。
ランダムで飛ばされるなんて言われて、対策を立てられる人間がいたら、俺が見てみたいよ、本当。
「では参ります!心を強く持って、必ず生きて帰ってきて下さいませっ!!」
「へ?ちょ、ちょっと待てっ!!その言い方だと、まるで……」
まるで生きて帰って来れないみたいじゃないかっ!
そう言おうとした言葉は、見事にリーナに遮られてしまった。
「ではご武運を!開け!ゲートホールっ!!」
「だから待ってって……うわあああああああっ!!!」
リーナの行動を止めようとした俺の口から出たのは、言葉なんかじゃなくて、悲鳴だった。
当たり前だ。
こんな状況で叫ばない奴なんか、絶対にいない。
足が地面から離れて、いっきに空に開いた穴に吸い込まれるんだぞ!?
「お気をつけてー」
ぐるぐる回り出した視界の中に、手を振りながら俺を見ているリーナの姿が目に入る。
あいつのその笑顔を見た瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。